学校日記

5月30日 研究協議会 非認知能力の重要性と教育現場での現状認識

公開日
2025/06/01
更新日
2025/06/01

研修

研究協議会では、非認知能力が単なる学力だけでなく、人格形成を支援する上で不可欠な要素であると強調されました。

認知能力と非認知能力の定義・評価方法の課題

定義の明確化と混同の解消

認知能力は「共通の尺度で点数や数値にして評価測定できる能力」と定義され、定期考査や模試で明確な数値として評価されるものとされました。一方、非認知能力は「評価測定が難しい能力」であり、記憶、理解、知覚、想像、推論、判断といった認知機能とは異なる概念であることが説明されました。しかし、この認知能力と認知機能の混同が起きやすい点が問題として指摘されています。

評価方法の困難さ

非認知能力の評価は、共通の尺度での客観的な測定が困難であり、主観的な自己評価や総合評価に頼らざるを得ないという課題が明確に示されました。この主観性が評価の妥当性や公平性を損なうリスクがある一方で、「評価が高いからといって必ずしも良いとは限らない」という、過度な我慢や協調性の強要が子どもに負担を与える可能性も指摘されています。

歴史的背景と社会的な重要性

非認知能力の概念は、1970年代の学力偏重主義や詰め込み教育の反動として注目され、「見えない学力」「人間力」とも呼ばれるようになりました。スポーツ分野をはじめとする人生全般において、選手の主体性やメンタルトレーニング、チームビルディングといった非認知能力が重視されている現状も共有されました。

非認知能力の実践的な評価・育成方法

3分類によるアプローチと自己評価ワーク

非認知能力は、「自分と向き合う力」「自分を高める力」「他者とつながる力」の3つに分類できることが提案されました。学校教育目標もこの3分類に振り分けることが可能であり、これによりクラスや個人ごとにどの力が強いか、弱いかを把握しやすくなるとのことです。教師自身が非認知能力を自己評価し、グループで共有するワークが継続的に実施される予定です。

観察に基づく評価と発達段階への配慮

教師は子どもの行動を観察し、変化や継続性をもとに非認知能力の成長を評価する方法が示されました。通知表の所見などが典型例として挙げられています。

非認知能力の発達は、小学四年生(十歳)から高校三年生までが中心時期であり、「九歳、十歳の節(壁)」と呼ばれる重要な発達段階があることが強調されました。この時期の教育内容や指導方法が子どもの発達に大きく影響するため、新人教師の負担軽減のためにも、教科担任制、特に算数での導入が推奨されています。

子どもの気質と成長段階に応じた指導

生まれ持った気質への理解

子どもには生まれつきの気質(性格のベース)があり、これを無理に変えようとすることは意味がないと強調されました。右上の子(落ち着きがない)、左上の子(変化が好きで感動しやすい)、右下の子(慎重で丁寧だがこだわりが強い)など、気質ごとの特徴を理解し、それぞれに合わせた指導が重要とされています。

自己客観視の発達と行動変容の支援

小学3・4年生(9歳・10歳)頃から自己客観視ができるようになり、自分の行動をモニタリングしコントロールできるようになる時期とされています。この時期以降、意識的に行動を変え、習慣化することで行動が変わるため、このタイミングでの支援が重要です。

非認知能力のピラミッドモデルと価値観形成

非認知能力は後天的に伸ばせる力であり、「意識→行動→習慣→人格」の順で変化するというウィリアム・ジェームズの理論が紹介されました。親や教師は、子ども自身が作る非認知能力のピラミッド(コミュニケーション力、忍耐力、意欲など)作りをサポートし、「気質」という変えられない土台の上に「意識」や「価値観」を積み上げていくことが重要とされています。

また、後天的に身につける価値観や信念(ビリーフセット)は行動選択の基準となるため、学校は家庭以外の多様な価値観に触れる場として、先生が自身の価値観を言葉で伝えることが重要であるとされました。

メタ認知・自己調整力と感情を動かす授業

メタ認知と振り返りの重要性

モニタリング(自己認識)とコントロール(自己調整)を合わせたメタ認知は、言動の一致や行動の意識的なコントロールを可能にするために不可欠です。小中学生には振り返りの機会を設けることでメタ認知がしやすくなり、先生によるポジティブフィードバックが子どもの良い習慣形成を促すことが強調されました。

感情を動かす「ギミック」の活用

児童の意識付けには、直接的な声かけだけでなく、間接的な仕掛け(ギミック)や環境構成が有効であると提案されました。教具、空間(BGM、照明、席の配置)、活動(クイズ作成、ディベート、ディスカッション、実験など)といった多岐にわたるギミックを通じて、子どもたちの感情を動かし、非認知能力を意識化させることが重要とされています。感情が動くことで記憶の定着率も高まり、認知能力のインプットにも有効であるとのことです。

授業者が作成したギミックブラッシュアップシートを活用し、授業の山場・谷場を感情グラフとして可視化し、どこで感情が動くかを分析する手法も紹介されました。これにより、授業が「どうでもいい授業」にならず、子どもたちの感情が大きく動く授業になることが期待されています。

組織的な取り組みと学びのインフラ

個々の教師の実践だけでなく、組織的・チーム的に非認知能力の育成に取り組むことの重要性が強調されました。体系化された取り組みにより、教育活動の質が向上し、効果的な教育活動が可能となるとのことです。

また、「学びのインフラ」の重要性も指摘されました。心理的安全性や学習習慣、家庭・地域との連携といったインフラが整っていない学校では、どれだけ授業を工夫しても効果が出にくいリスクがあるため、日常生活や学級経営、家庭・地域との連携を強化することが次のステップとして挙げられています。

まとめと今後の展望

今回の研究協議会では、非認知能力の重要性が改めて確認されるとともに、教育現場での認識の差、評価の難しさ、そして実践的な育成方法について活発な議論が交わされました。特に、感情を動かす「ギミック」を活用した授業設計や、児童の気質や発達段階に応じた個別アプローチ、そして組織的な取り組みと学びのインフラ整備の重要性が強調されたことは、今後の教育実践において大きな示唆を与えるものと考えられます。

今後も継続的な研究と実践を通じて、非認知能力の育成がより効果的に教育現場に根付いていくことが期待されます。

本日は本校の研究授業並びに協議会にご参加いただきました北牧野保育園長・うらら幼稚園の先生方・磯島小学校の先生方・渚西中学校の先生方、ありがとうございました。

今後も中学校区で研究を深めて参ります。